内部統制システムについて調べてみました。


取締役にはその職務遂行につき、善管注意義務(330条、民法644条)・忠実義務(355条)を負い、通常人が通常その地位に就いたならば取引上当然に払うべきことが求められる程度の注意深さをもって受任義務を執行すべき義務、そして特別の知識・技能を尽くす義務があります。
そして、会社法では、大会社(最終事業年度の貸借対照表上の資本金の額が5億円以上または負債の合計額が200億円以上の株式会社 会社法2条6号)の取締役会に内部統制システムを決定することを義務付けています。

内部統制システムとは、「内部統制」とは,英語の“Internal Control”を直訳したものであり、もともと米国において生じた概念です。
業務の有効性と効率性、財務報告の信頼性、関連法規の遵守、資産の保全が主な目的です。
その目的を達成するための基本要素として、統制環境(誠実性、倫理観、経営者の意向、姿勢、経営方針及び経営戦略、組織構造及び慣行)、リスクの評価と対応(リスクを識別・分析・評価し,リスクへの適切な対応を行う過程)、統制活動(経営者の指示・命令が適切に実行されることを確保するための方針と手続き)、情報と伝達(必要な情報を識別・把握・処理し,組織内外及び関係者相互に正しく伝えること)、モニタリング(内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセス)、ITへの対応(組織目標を達成するために予め適切な方針及び手続きを定めて適切に対応すること)が基本的要素としてかかげられています。

効率的な経営を促して企業の収益性や競争力を高め,株主利益の増大を図り、経営の健全性を高め,法令遵守体制の確立を促して,企業に不測の損害を与えるような行為がなされるのを防止することを目的とするコーポレートガバナンス(企業統治) をいかに強化しても、それだけで効率的な業務運営や経営の健全性を実現できるわけではないので、経営者が企業内を十分に統制できていなければ、仮に株主などによる経営監視を徹底したとしても、その効果はあまり期待できないため、コーポレートガバナンスの前提として、経営者が企業内を適切に統制・管理していること、すなわち内部統制システムが必要となるのです。




362条(取締役会の権限等)
4項 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。
6号 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

5項 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。




会社法施行規則にも、内部統制を定めた規定があります。





会社法施行規則98条
1項 法第三百四十八条第三項第四号に規定する法務省令で定める体制は、次に掲げる体制とする。
1号 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
2号 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
3号 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
4号 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
5号 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制





判例もいろいろあります。






(大阪地判平12・9・20) 大和銀行事件

「健全な会社経営を行うためには、目的とする事業の種類、性質等に応じて生ずる各種のリスク…等の状況を正確に把握し、適切に制御すること、すなわちリスク管理が欠かせず、会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。」
「取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役または業務担当取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否か監視する義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなす」





(青森地判平18・2・28)

原告公社の処務規程8条は,理事長不在のときの副理事長の代決権を定めているところ,理事長の代決権を有するということは,理事長不在のときに所定の案件につき処理をすることを指すものである。このような上記理事長の代決権の規程並びに定款7条2項の「補佐」の文言によれば,副理事長の職務は,理事長の職務全般にわたりその仕事を助ける職務であると解される。したがって,副理事長には,理事長を補佐したり,職員らに経理等に関する規程を遵守させるなどして適切に内部統制システムを機能させ,経理担当職員の不正行為を未然に防止すべき善管注意義務がある。





(大阪高判平19・3・30)

従来から,退任する取締役に対しては,退任期の株主総会退職慰労金を支給する議案を提出してその旨の決議を得,内規に基づいて退職慰労金を支給することを通例としてきたY社において,他の取締役らから過去に会社の発展に寄与した功労があると評価されながらも,代表取締役社長らとの経営方針をめぐる対立に敗れたことから取締役を退任したXらが,その後のY社の取締役らの間にXらに対する退職慰労金を支給しないとの意見があることを知らされ,代表取締役や主要な取締役らに退職慰労金の支給の手続を進めるよう要請するも明確な回答が得られない状況の下で,他の取締役らの説明等から退職慰労金の支給に有利になると考えY社からの借入金を清算し,保有するY社株式を売却ないし寄附したなど,XらにおいてY社の取締役会が内規に基づく退職慰労金の支給を前提とする議案を速やかに株主総会に提出しこれが可決されて退職慰労金の支給を受けられるという強い期待を抱いていたことに無理からぬところがあったなど判示の事実関係の下では,Xらの退任から約2年を経過した時点に至って退職慰労金を支給しない旨の議案を株主総会に提出し,退職慰労金の不支給というXらの期待に反する結果を惹起した取締役会の措置は,Xらの上記期待を裏切り,その人格権的利益を侵害した違法なものとして,Y社は不法行為責任を免れない。





(2002・4・5和解) 神戸製鋼所株主代表訴訟事件

神戸製鋼所のような大企業の場合,業務の分担が進んでいるため,他の取締役や従業員全般の動静を正確に把握することは事実上不可能であるから,取締役は商法上固く禁じられている利益供与のごとき違法行為はもとより,大会社における厳格な企業会計規制をないがしろにする裏金捻出行為等が社内で行われないよう,内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるというべきである。そうであるとすれば,企業のトップとしての地位にありながら,内部統制システムの構築等を行わないで放置してきた代表取締役が,社内においてなされた違法行為について,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れるということができるというのは相当でないというべきである」
「この点につき,被告らは,神戸製鋼所においても一定の内部統制が構築されていた旨を主張する。しかし総会屋に対する利益供与や裏金捻出が長期間にわたって継続され,相当数の取締役及び従業員がこれに関与してきたことからすると,それらシステムは十分に機能していなかったものと言わざるを得ず,今後の証拠調べの結果においては利益供与及び裏金捻出には直接関与しなかった取締役であったとしても,違法行為を防止する実効性のある内部統制システムの構築及びそれを通じての社内監査等を十分に尽くしていなかったとして,関与取締役は関与従業員に対する監視義務違反が認められる可能性もある得るものである」






他にも、ヤクルト株主代表訴訟事件(最判平13・1・18)ダスキン株主代表訴訟事件(最判平16・12・22)雪印食品株主代表訴訟事件(名古屋高裁17・5・18)などがあります。




このサイトに内部統制のことが詳しく載ってます。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/tousei/20070327/266396/?ST=tousei