ロースクール受験のために司法試験の過去問をやってみたりしています。


警察官が、暴力団組員同士の乱闘事件による傷害の準現行犯人として甲を公道上で逮捕した後、自動車で約3キロメートル離れた警察署に連行し、逮捕から約1時間後に同警察署において、甲の身体及びその携帯していたバッグを捜索することは許されるか。
(平成9年第1問)

一.本問では、甲の準現行犯逮捕(212条2項)を前提として、逮捕に伴う無令状捜索(220条1項2号、3項)がなされているため、まず、当該準現行犯逮捕が適法になされているかを検討する。
1.準現行犯とは、212条2項各号の1つにあたり、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者をいい、現行犯同様無令状逮捕が認められる(212条2項)。
 この点、憲法33条は、無令状による逮捕として現行犯逮捕のみを規定していることから、準現行犯逮捕の合憲性につき問題となるも、「犯罪を行なってから間がない」という要件を厳格に解釈、適用する限りでは人権侵害のおそれがないため、合憲と解する。
 したがって、令状主義(憲法33条)の例外たる準現行犯逮捕が許容される要件としては、①犯罪及び犯人の明白性、②時間的接着性・場所的接着性、③時間的接着性の明白性、および④212条2項各号に該当する事実の存在の逮捕者による認識が必要であると解する。
2.以上の要件を充たした場合、適法な逮捕といえ、それを前提に無令状捜索が可能となる。
二.では、逮捕に伴う無令状捜索が認められる場合でも、3キロメートル離れた警察署で、逮捕から約1時間後に捜索することは許されるか。220条1項2号、3項は「逮捕する場合」に「逮捕の現場」で無令状の捜索・差押ができるとしているので、この意義が問題となる。
1.思うに、憲法35条が原則として捜索・差押えが令状に基づかなければならないとしている趣旨は、捜査機関の権限が濫用され不当なプライバシー侵害が行われることを、第三者機関たる裁判所に事前に審査させることにより、可及的に防止するためである。
 そうだとすれば、例外的に無令状捜索・差押が許される場合も厳格に解すべきである。
 したがって、被逮捕者の抵抗を抑圧し、逃亡を防止し、同時に現場の証拠の破壊を防止する緊急の必要性がある場合に限り、令状主義の例外として認められると解する(緊急処分説)。
 すなわち、「逮捕する場合」とは、逮捕の直前直後、「逮捕の現場」とは被疑者の身辺、すなわち身体又はその直接の支配下にある場所を原則として意味すると解すべきである。
 これを本問についてみるに、本問の捜索は、逮捕から約1時間も後に行われており、しかも逮捕の場所から約3キロメートルも離れた警察署は、被逮捕者甲の身体又はその直接の支配下にある場所とはいえないため、「逮捕する場合」「逮捕の現場」と言えないとも思える。
2.もっとも、身体という「現場」すなわち、被疑者の支配が及ぶ範囲には実質的な変更はないので、若干場所を移動した後に捜索・差押をすることも許される余地がある。
 また、本問のように公道上で逮捕したような場合、その地点での身体捜索の実施にはむしろ不適当な事情があるケースが少なくない。
 したがって、逮捕現場付近の状況に照らし、逮捕の現場で捜索・差押をなすと、①被逮捕者の名誉等を侵害し、②被逮捕者らの抵抗による混乱が生じ、または、③現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索・差押えをすることが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索・差押えに適する最寄の場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法な処分と解することができる。
3. 本問の準現行犯逮捕は公道上でなされていることから、その場で捜索・差押をなすと、①被逮捕者の名誉を侵害し、③現場付近の交通を妨げるおそれがある。
 また、本件は、暴力団員同士の乱闘事件であることから、②被逮捕者による抵抗にあい、又は仲間の暴力団員から奪還されるおそれがあるといえる。
 そして、逮捕から約1時間後であれば合理的な時間的範囲を明らかに逸脱しているとはいえず、また、自動車で約3キロメートル離れた警察署でも、被疑者の抵抗等で、速やかな移動ができなかった等の事情も十分考えられることから、逮捕現場の最寄りの警察署である限り、合理的な場所的範囲内にあるといえる。
 よって、本件捜索は、220条1項2号、3項に該当し適法である。
三.以上により、甲の準現行犯逮捕(212条2項)が適法になされていれば、それを前提に行われた甲の身体および携帯していたバッグを捜索することは許されると解する(220条1項2号、3項)。
以上




最判平8・1・29判例が重要です。


一 いわゆる内ゲバ事件が発生したとの無線情報を受けて逃走犯人を警戒、検索中の警察官らが、犯行終了の約一時間ないし一時間四〇分後に、犯行場所からいずれも約四キロメートル離れた各地点で、それぞれ被疑者らを発見し、その挙動や着衣の汚れ等を見て職務質問のため停止するよう求めたところ、いずれの被疑者も逃げ出した上、腕に籠手(こて)を装着していたり、顔面に新しい傷跡が認められたなど判示の事実関係の下においては、被疑者らに対して行われた本件各逮捕は、刑訴法二一二条二項二号ないし四号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものであって、適法である。
二 逮捕した被疑者の身体又は所持品の捜索、差押えについては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるなどの事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときは、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上でこれらの処分を実施することも、刑訴法二二〇条一項二号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができる。
三 被疑者らを逮捕した後、各逮捕の場所から約五〇〇メートルないし三キロメートル離れた警察署に連行した上でその装着品、所持品について行われた本件各差押えは、逮捕の場所が、被疑者の抵抗を抑えて差押えを実施するのに適当でない店舗裏搬入口付近や車両が通る危険性等もある道幅の狭い道路上であり、各逮捕現場付近で差押えを実施しようとすると被疑者らの抵抗による混乱を生ずるおそれがあったなどの事情のため、逮捕の後できる限り速やかに被疑者らを差押えに適する最寄りの場所である右警察署に連行した上で実施されたものであるなど判示の事実関係の下においては、刑訴法二二〇条一項二号による差押えとして適法である。



21歳になりました。
1週間後には試験なのでがんばります。