法人格否認の法理について調べてみました。

法人格否認の法理とは、会社の存在を全面的に否定せずに、特定の事案に関し、会社という外観を否定し、その背後にある実態を直接的に把握して、これに即した法律的扱いを試みる法理のことをいいます。
一般法理のような性格を有するため、公共の便益と正義の目的にかなう限りで、限定的に認められるものです。



法人格否認の法理を認めた判例には、次のものがあります。




(最判昭44・2・27)

「およそ社団法人において法人とその構成員たる社員とが法律上別個の人格であることはいうまでもなく、このことは社員が一人である場合でも同様である。しかし、およそ法人格の付与は社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであつて、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに、法的技術に基づいて行なわれるものなのである。従つて、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては、法人格を認めることは、法人格なるものの本来の目的に照らして許すべからざるものというべきであり、法人格を否認すべきことが要請される場合を生じるのである。」
「思うに、株式会社は準則主義によつて容易に設立され得、かつ、いわゆる一人会社すら可能であるため、株式会社形態がいわば単なる藁人形に過ぎず、会社即個人であり、個人則会社であつて、その実質が全く個人企業と認められるが如き場合を生じるのであつて、このような場合、これと取引する相手方としては、その取引がはたして会社としてなされたか、または個人としてなされたか判然しないことすら多く、相手方の保護を必要とするのである。ここにおいて次のことが認められる。すなわち、このような場合、会社という法的形態の背後に存在する実体たる個人に迫る必要を生じるときは、会社名義でなされた取引であつても、相手方は会社という法人格を否認して恰も法人格のないと同様、その取引をば背後者たる個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、そして、また、個人名義でなされた行為であつても、相手方は敢て商法五〇四条を俟つまでもなく、直ちにその行為を会社の行為であると認め得るのである。けだし、このように解しなければ、個人が株式会社形態を利用することによつて、いわれなく相手方の利益が害される虞があるからである。」




(最判昭48・10・26)

「おもうに、株式会社が商法の規定に準拠して比較的容易に設立されうることに乗じ、取引の相手方からの債務履行請求手続を誤まらせ時間と費用とを浪費させる手段として、旧会社の営業財産をそのまま流用し、商号、代表取締役、営業目的、従業員などが旧会社のそれと同一の新会社を設立したような場合には、形式的には新会社の設立登記がなされていても、新旧両会社の実質は前後同一であり、新会社の設立は旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であつて、このような場合、会社は右取引の相手方に対し、信義則上、新旧両会社が別人格であることを主張できず、相手方は新旧両会社のいずれに対しても右債務についてその責任を追求することができるものと解するのが相当である。」
「本件における前記認定事実を右の説示に照らして考えると、上告人は、昭和四二年一一月一七日前記のような目的、経緯のもとに設立され、形式上は旧会社と別異の株式会社の形態をとつてはいるけれども、新旧両会社は商号のみならずその実質が前後同一であり、新会社の設立は、被上告人に対する旧会社の債務の免脱を目的としてなされた会社制度の濫用であるというべきであるから、上告人は、取引の相手方である被上告人に対し、信義則上、上告人が旧会社と別異の法人格であることを主張しえない筋合にあり、したがつて、上告人は前記自白が事実に反するものとして、これを撤回することができず、かつ、旧会社の被上告人に対する本件居室明渡、延滞賃料支払等の債務につき旧会社とならんで責任を負わなければならないことが明らかである。」



もっとも、外観信頼保護の一般原則によっても、解決できたのではないかという考えも有力です。



また、阪高裁平12・7・28は、現物出資の詐害行為取消を主張しながら、同時に法人格否認の法理を主張することはできないとしています。
選択的主張はできることもありますが、詐害行為取消は、法人格の存在を前提とするものであり、法人格否認の法理を主張することとは相反することだからです。


なお、法人格否認の法理には、濫用事例と形骸化事例があります。
濫用事例は、会社の背後者が会社を自己の意のままに支配していること(支配要件)、違法・不当な目的のために法人格を利用しようとしていること(目的要件)を有していることが要件で、形骸化事例は法人格が全くの形骸に過ぎず、総会や財産処分等の手続が行われていないことが要件とされていますが、はっきりと解釈が一致しているわけではありません。





返済逃れのために会社設立…。
凡人には想像つきません。