続・募集株式について調べてみました。


きのうの続きです。経済面における株主の利益保護も重要論点です。


まず第三者に対する有利価格発行規制があります。
「特に有利な金額」で募集がなされると、既存株主が経済的損失を被るからです。


199条(募集事項の決定)
3項:第一項第二号(募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法)の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。


この規制は公開会社にも及びます。
「特に有利な金額」でなく発行する場合には、取締役会決議で足りても、「特に有利な金額」で発行する場合には、株主総会の特別決議によって承認させる必要があります(199条2項、201条1項、309条2項5号)。


199条(募集事項の決定)
1項:株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
1号 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
2号 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
3号 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
4号 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
5号 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2項:前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


309条(株主総会の決議)
2項:前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
5号 第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号及び第二百四条第二項の株主総会


「特に有利な価格」ではなく、公正な発行価格の場合、総会の特別決議は不要です。


(東京高裁昭46・1・28)

「特に有利な発行価額とは通常新株を発行する場合に発行価額とすべき価額、つまり公正な発行価額と比較して特に低い価額をいい、しかして公正な発行価額というのは、新株の発行が会社の資金調達のために行われ、従つて新株の全部について引受および払込がなされることを要する反面、新株の発行によつて旧株主の有する株式の価額が低落し旧株主が不利益を被ることを極力防止することを要する点にかんがみるときは、新株の発行により企図される資金調達の目的が達ぜられる限度で旧株主にとり最も有利な価額であると解される」
「公正な価額であるか否かは発行価額を決定した時点において判断すべきものであり、株式市場の動向については払込期日までの予め推定される株式の価額を考慮すれば足り、遠い将来における株価の変動をも予測したうえで判断すべきものではない」



有利発行については、総会決議を経ずに発行してしまった場合の発行の効力も重要論点です。
株主の利益保護を優先すると無効にすべきですが、判例は取引の安全を重視して、有効としているようです。


(最判昭40・10・8)

新株引受権を株主以外の者に付与することについては株主総会の特別決議を要するのであるが、既に取締役会の決定に基づき対外的に会社の代表権限を有する取締役が当該新株を発行したものであるかぎり、右第三者引受についての株主総会の特別決議がなされなかつたことは、新株発行無効の原因となるものではないと解すべきである。けだし、新株の発行は、元来株式会社の組織に関するものではあるが、授権資本制度を採用する現行商法が新株発行の権限を取締役会に委ねており、たゞ株主以外の者に新株引受権を与える場合には、株式の額面無額面の別、種類、数及び最低発行価額について株主総会の特別決議を要するに過ぎないものとしている点等にかんがみるときは、新株発行は、むしろ、会社の業務執行に準ずるものとして、取り扱つているものと解するのを相当とすべく、右株主総会の特別決議の要件も、取締役会の権限行使についての内部的要件であつて、取締役会の決議に基づき代表権を有する取締役により既に発行された新株の効力については、会社内部の手続の欠缺を理由にその効力を否定するよりは右新株の取得者および会社債権者の保護等の外部取引の安全に重点を置いてこれを決するのが妥当であり、従つて新株発行につき株主総会の決議のなかつた欠缺があつても、これをもつて新株の発行を無効とすべきではなく、取締役の責任問題等として処理するのが相当であるからである。



そのほかにも、会社法は株主の利益保護のために、各種の法規定を設けています。


第五款 募集株式の発行等をやめることの請求
210条
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
1号 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
2号 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合


新株発行差止請求権です。総会の特別議決を経ていない有利発行は法令違反に、現経営陣の支配維持を目的とした反対派株主の議決権の割合を低下させるための発行は著しく不公正な方法にあたります。
差止処分に違反してなされた新株発行は無効となります。


(最判平5・12・16)

「本件新株発行に対する差止請求の訴えは、被上告人Aが本件仮処分命令を得た後、新株発行がされることにより持株比率の減少等の不利益を受けるとする被上告人らによって、本件新株発行を阻止する目的の下に提起されたものであって、被上告人らは、右訴えの提起により、万一右仮処分命令に違反して新株が発行された場合には右新株発行の効力を争い、仮処分命令違反をその理由とする意思をも表明していると認められるから、本件で変更された新株発行無効の訴えについては、新株発行差止請求の訴え提起の時に提起されたものと同視することができる特段の事情が存するものというべきである。」
「商法二八〇条ノ一〇に基づく新株発行差止請求訴訟を本案とする新株発行差止めの仮処分命令があるにもかかわらず、あえて右仮処分命令に違反して新株発行がされた場合には、右仮処分命令違反は、同法二八〇条ノ一五に規定する新株発行無効の訴えの無効原因となるものと解するのが相当である。けだし、同法二八〇条ノ一〇に規定する新株発行差止請求の制度は、会社が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正な方法によって新株を発行することにより従来の株主が不利益を受けるおそれがある場合に、右新株の発行を差し止めることによって、株主の利益の保護を図る趣旨で設けられたものであり、同法二八〇条ノ三ノ二は、新株発行差止請求の制度の実効性を担保するため、払込期日の二週間前に新株の発行に関する事項を公告し、又は株主に通知することを会社に義務付け、もって株主に新株発行差止めの仮処分命令を得る機会を与えていると解されるのであるから、この仮処分命令に違反したことが新株発行の効力に影響がないとすれば、差止請求権を株主の権利として特に認め、しかも仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうことになるからである。」



また、公開会社においては、所有と経営の分離がなされているため、既存株主は、持株比率に関しては一般的に関心が薄く、会社の資金調達目的が優先されます。よって、発行可能株式総数の範囲であれば、取締役会決議によって、募集株式の発行ができます(201条1項)。きのうのコピペです。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


この場合、会社は、株主に対して募集事項を通知ないし公告しなければなりません(201条3項、4項)。
株主に募集事項を知らせることにより、株主がその内容を吟味し、その内容に疑問を生じれば、募集株式の発行の差止請求ができるようにするためです。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
3項:公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。
4項:前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。


この通知・公告を欠く新株発行の効力も重要論点です。
この場合、通知・公告を欠いても、差止め請求がなされなかった、または請求が認容されないと認められる場合でない限り、無効事由となります。


(最判平9・1・28)

「新株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、右(三)及び(四)の点に照らせば、本件において新株発行差止請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(一)の点で無効原因があるといわなければならない。」







いちおう重要っぽいところはまとめましたが…まだある。゜(PД`q)゜。
会社法嫌い嫌い。


明日からまた学校です。学校は好きです。