ロースクール受験のために司法試験の過去問をやってみたりしています。

甲乙両名は、共謀の上丙を殺害したとして起訴された。甲に対する証拠として、乙の「甲に頼まれて丙を射殺した。」という検察官面前調書がある。しかし、乙は、公判廷ではあいまいな供述をするのみであった。一方、甲は、終始、乙に依頼したことを否認している。
この場合において甲の有罪を認定する上での問題点を論ぜよ。(昭和61年第2問)

一.甲は、殺人罪の共謀共同正犯(刑法60条、199条)において共謀のみに関与している。
この点、単なる謀議関与者は共謀の事実のみで犯罪が成立することから、共謀の事実は、「罪となるべき事実」に他ならない。
よって、甲の有罪を認定するための証拠は、適式な証拠調べ手続きを経た証拠能力ある証拠によらなけらばならない(317条、厳格な証明)。
二.本問では、甲乙は共同審理を受けている共同被告人であると解されるが、裁判所は乙の検察官面前調書を甲の有罪認定に使用できるか。
1.この点、検面調書は伝聞証拠にあたり、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。
もっとも、本条の趣旨は、供述証拠が、知覚、記憶、表現、叙述という心理過程を経て公判に顕出されるので、その過程に誤りが入りやすいことから、この誤りを当事者の反対尋問によって正さなければ真実を発見(1条)し得ないので、反対尋問を経ていない供述を証拠として許容しないとしたものである。
よって、反対尋問を経ていない供述証拠でも、反対尋問に代わるほどの信用性の情況的保障と証拠利用の必要性があれば、例外的に証拠能力が認められる(321条以下)。
2.では、本問検面調書はどの伝聞例外の条文によるべきか。
この点、共同被告人の被告人としての側面を重視し、322条で許容されるとする見解がある。
しかし、共同被告人も他の共同被告人にとっては「被告人以外の者」であり、被告人の反対尋問権の行使を確保するために321条1項によるべきである。
よって、321条1項の要件を満たした場合は証拠能力が認められると解する。
三.本問の検面調書は321条1項2号後段の要件を充たすか。
1.まず、「あいまいな供述」が「実質的に異なる供述」といえるかが問題となる。
思うに、「実質的に異なった供述」とは、他の証拠または他の立証事項とあいまって、異なる認定を導くようになる場合をいう。
本問において、公判廷であいまいな供述をする場合には異なった認定を導き得るし、また2号後段の場合には原供述者が出頭しており反対質問(311条3項)を行い得る。
そこで、乙が黙秘権(憲法38条1項、法311条1項)を行使せず、反対質問が十分に行なわれた場合には、「実質的に異なった供述」にあたると解する。
2.そうだとしても、321条1項2号後段の要件を満たすには、さらに特信情況が必要である。
では、特信情況の有無はいかに判断すべきか。
思うに、特信情況は証拠能力の要件である以上、証明力の判断以前に行なわれなくてはならないから、基本的には外部的付随事情によって判断すべきである。
もっとも、321条1項2号後段は、検面調書と公判廷の供述とが「相反するか若しくは実質的に異なった」をも証拠能力取得の要件としており、ある程度供述内容に立ち入ることが必要となる。
よって、外部的付随事情のほかに、この事情を推認する資料とする限度で供述内容を斟酌することができると解すべきである。
3.本問では、公判廷での供述は共犯者である甲の面前でなされるものであり、取調室における供述と比べ、相対的に真実のことを供述しにくい情況にあるといえる。
よって、特信情況が認められ、321条1項2号後段の要件を満たす。したがって当該検面調書には証拠能力が認められる。
四.そうだとしても、検面調書における乙の「甲に頼まれて丙を射殺した」との供述は、乙にとっては自白となり、乙の有罪認定に用いるためには補強証拠が必要(憲法38条3項、法319条2項)である。
では、共犯者の供述書を他の被告人に対する証拠として用いる場合にも補強証拠が必要か。
思うに、自白に補強証拠を必要とする趣旨は、自白が反対尋問を経ないにもかかわらず証拠能力が認められるからであるが、共犯者に対しては、被告人は反対質問(311条3項)を行ないうる。
また、自白した方が無罪となり、否認した方が有罪となるのも、自白が反対尋問を経た供述よりも証明力が弱い以上当然のことといえる。
よって、共犯者の自白には、補強証拠は不要であると解する。
ただし、共犯者の自白には、自己の責任を軽減しようと引っ張り込みの危険があるので、その信用性判断は慎重に行なうべきといえる。
五.以上により、本問検面調書は321条1項2号後段により、補強証拠がなくても甲の有罪認定に使用しうる
以上


刑事訴訟法、難しいです。