ロースクール受験のために司法試験の過去問をやってみたりしています。

国会は、国際競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図るため、外国からの輸入を規制し、その生産物の価格の安定を図る措置を講ずる法律を制定した。その生産物を原料として商品を製造しているA会社は、右の法律による規制措置のため外国から安く輸入できず、コスト高による収益の著しい低下に見舞われたため、右立法行為は憲法に違反すると主張し、国を相手に損害賠償を求める訴えを提起した。
右の訴えに含まれる憲法上の論点について説明せよ。
(昭和60年度第1問)

一.A会社による損害賠償請求は国家賠償請求であるが、そもそも立法行為を「違法」であるとして、国家賠償請求(国家賠償法1条1項)できるか。
 確かに、
①国会議員の立法行為は本質的に政治的なものであって、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは原則的に許されない。
②免責特権(51条)もそのような考慮による。
とする見解もある。
 しかし、51条は個々の国会議員の院内での自由な言論を保障したものであって、国会がその行為により国民の権利を侵害してもよいとする趣旨ではない。
よって、立法内容が違憲であればその立法行為は「違法」となり、これにより国家賠償請求なしうると解すべきである。
二.では本問の法律は違憲か。
1.本問では、A会社の輸入する自由が制約されている。そこで、かかる制約が憲法上許されるかが問題となる。
思うに、輸入をする自由は、営業の自由として、職業選択の自由(22条1項)に含まれて保障される。
 なぜなら、選択した職業を自由に遂行できなかったら、職業選択の自由の意味が失われてしまうからである。
そして、法人も活動する社会的実体であり、社会の重要な構成要素である以上、その人権の性質上可能な限り保障されるべきなので、法人たるA会社にも営業の自由は保障されると解する。
2.もっとも、営業の自由といえども、絶対無制約ではなく、人権相互の調整原理たる「公共の福祉」(13条)による制約に服する。
 また、資本主義が高度に発達した現代社会においては、貧富の格差が広がり、国家が国民生活に介入して社会的・経済的弱者を救済する必要が生じており、社会経済上の政策を講ずれば、社会的強者の経済的自由権の制約は不可避であるから、営業の自由のような経済的自由権は、社会国家的公共の福祉(22条1項)による政策的制約にも服する。
3.では、本問制約がかかる「公共の福祉」の範囲内と言えるか。その合憲性判定基準が問題となる。
 思うに、営業の自由のような経済的自由権の場合は、
①民主制の過程で回復することが可能である。
②社会・経済政策の問題が関係することが多く、政策の当否について審査する能力に乏しい裁判所としては立法府の判断を尊重すべきである。
 よって、精神的自由権と比べて緩やかな基準によるべきである。
 もっとも、経済的自由権も個人の生存ないし人格的自由に不可欠な前提をなす人権であり、その種類は多種多様であるので、よりきめ細やかな基準設定をすべきである。
 具体的には、
①高度の政治判断が多く、情報収集能力、政策的判断に優れる政治部門の意思を尊重する方が、国民の福利に役立つため、社会福祉政策実現のための積極目的の規制に対しては、明白性の原則が基準として妥当である。
②立法目的が人の生命、健康などに直接係わるものである以上、危険発生の蓋然性を、裁判所がある程度客観的に判断することが容易であるので、国民の生命・身体に対する危険防止のための消極目的の規制に対しては、厳格な合理性の基準が妥当である。
4.本問の法律は「国際競争力の弱いある産業を保護しその健全な発展を図る」ことを目的としており、積極目的規制であるため、明白性の原則により、合憲性を判断すべきである。
 この点、本問規制の「国際競争力の弱い、ある産業を保護し、その健全な発展を図る」という目的は正当である。
 また、かかる目的のために、輸入規制をひいて生産物の価格を安定させるという手段は、著しく不合理であることが明白とは言えない。
 よって、本問の法律は立法裁量の範囲内であり、合憲である。
5.以上により、国家賠償法1条1項の要件を満たさないため、A会社の国家賠償請求は認められない。
以上



明白性の原則違憲になることって…。