ロースクール受験のために司法試験の過去問をやってみたりしています。


刑事手続において令状主義の例外にあたる場合を挙げ、それぞれについて説明を加えよ。(昭和57年第1問)

一.総論
令状主義とは、捜査機関が強制処分をするにあたっては、その処分に先立って、中立衡平な第三者たる裁判所の事前の司法審査を経た各別の令状がなければならないとする原則をいう(憲法33条、35条、刑事訴訟法199条、207条、218条)。
この令状主義の趣旨は、捜査機関の権限濫用を防止し、被疑者の人権を保障することにある。
ただし、実体的真実発見(1条)のため令状主義の例外がある。以下順に検討していく。
二.逮捕について
1.原則、逮捕状が要求される(199条)。
2.例外
①現行犯逮捕(212条1項、213条)
現に罪を行い、または現に罪を行い終わったものを現行犯人といい、誰でもこれを令状なしに逮捕できる。
その根拠は、ア 犯罪の実行が明白で、司法判断を経なくても誤認逮捕のおそれがなく(現認性)、イ 逮捕状の発布を待っていたのでは犯人が逃走し、または証拠を隠滅するおそれが高く、令状請求の時間的余裕がない(緊急性)ことにある。
よって、現行犯逮捕の要件として、ア 犯罪及び犯人の明白性、イ 犯罪の現行性・時間的接着性の明白性、ウ 逮捕の必要性が必要となる。
②準現行犯逮捕(212条2項)
現行犯とみなされる者の逮捕は令状なくしても許される。
もっとも、憲法33条は、令状主義の例外を現行犯逮捕のみと規定していることから、準現行犯を定めた212条2項は違憲ではないかが問題となる。
思うに、準現行犯は旧法以来の概念で憲法はこれを前提にしたと考えられ、また、準現行犯は犯行後「間がないと明らかに認められるとき」というように要件を厳格に絞っているので、令状主義の精神に反するとまではいえない。
よって、「間がない」という時間的要件を厳格に解釈し、運用する限りは違憲とはいえないと解する。
緊急逮捕(210条)
ア 一定の重罪事件で、イ 高度の嫌疑があり、ウ 緊急性が認められるという3つの用件がある場合に、これらの理由を告げて無令状で逮捕することができる。
もっとも、憲法33条は、令状主義の例外を現行犯逮捕のみと規定していることから、緊急逮捕を定めた210条は違憲ではないかが問題となる。
思うに、緊急逮捕は、実質的に、社会治安・真実発見の必要性から、緊急状況下での重大犯罪である場合に限って、厳格な要件のもとで認められるものである。
また、逮捕後直ちに令状を得ることが必要とされ、事後的に逮捕の理由・必要性、緊急逮捕の適法性が判断される。
よって、きわめて厳格な要件のもとで、緊急逮捕憲法33条に反しないと解する。
三.捜索・差押について
1.原則、捜索・差押令状が要求される(218条、憲法35条)。
2.例外として、逮捕に伴う捜索・差押が許される(220条)。
では、逮捕に伴う無令状捜索・差押が認められる根拠はなにか。
この点、逮捕の現場には証拠の存在する蓋然性が高いので、合理的な証拠収集手段として認められるとする見解もある。
しかし、憲法35条が捜索・差押に令状を要求した趣旨は、過去の経験に鑑み、捜査機関の権限濫用、一般的・探索的な捜査を司法的に抑制するためである。
そうだとすれば、逮捕に伴う捜索・差押は、逮捕を完遂させるために、被逮捕者の抵抗を抑圧し、逃亡を防止するためと同時に、現場の証拠の破壊を防止するための緊急の必要性から、例外的に認められたと解すべきである。
とすると、「逮捕する場合」とは、逮捕着手後もしくは被疑者が現在し逮捕直前にあることを指し、「逮捕の現場」とは、被疑者の身辺、すなわち身体または直接の支配下にある場所に限定すべきであると解すべきである。
もっとも、処分が被処分者の身体または所持品に対する捜索、差押えである場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被処分者の名誉等を害し、被処分者らの抵抗による混乱を生じ、または現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被処分者を捜索差押えの実施に適する最寄の場所まで連行した上、これらの処分を実施することも「逮捕の現場」における捜索差押えと同視しうることから、適法な処分であると解する。
3.その他明文上の例外
被逮捕者の指紋等の採取(218条2項)、裁判所がなす公判廷内における捜索・差押(106条)、裁判所がなす検証(128条)、凶器の捜検(警職法2条4項)等がある。
4.では、令状主義の例外として、緊急捜索・差押は認められるか。
確かに、緊急事態下、実体的真実発見のためには、無令状捜索・差押の必要性は認められる。
しかし、捜索・差押は対象者の人権を制約するものである以上、無令状について法律の根拠が必要である。
この点、緊急逮捕には明文の規定がある(210条)のに対し、緊急捜索・差押を許容する明文の規定はない。
よって、緊急捜索・差押は認められない。
以上



(補足)
 たとえば、殺人事件で逮捕した被疑者が覚せい剤を所持していた場合、この逮捕を根拠として無令状で覚せい剤を差し押さえることはできず、①覚せい剤不法所持で現行犯逮捕して、これに伴い、覚せい剤を差し押さえるか(220条)、②裁判官から差押え許可上の発付を得て差押えるか、③任意提出を求めて領置(221条)するしかないです。