起訴状一本主義(256条6項)について調べてみました。

256条6項
起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。



起訴状一本主義の趣旨
当事者主義的訴訟構造(298条1項、312条1項)ないし当事者主義の実行化
裁判所の予断を排除し、「公平な裁判」(憲法37条)の実現化


⇔審判対象の明確化・被告人の防御の機会の確保
256条3項 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。




これらについての判例としては、名誉毀損文書の全文を引用した起訴状についてのものが有名です。




(最判昭44・10・2)

本件起訴状における「外遊はもうかりまつせ、大阪府会滑稽譚」と題する文章原文の引用(起訴状参照)は、検察官が同文章のうち犯罪構成要件に該当すると思料する部分を抽出して記載したものであつて、本件訴因を明示するための方法として不当ではなく、また、裁判官に事件につき予断を生ぜしめるおそれのある書類の内容を引用したものというにはあたらない。




もっとも、判例が認めている、名誉毀損文書の全文引用は、審判対象が明確になるとしても、被告人の防御に資することにはならないので、否定されるのが有力です。


そのような場合、公訴提起は起訴状一本主義に反し、いったん抱いた予断は払拭しえないため、無効(公訴棄却)となります(338条4項)。

338条 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
4項 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。





また、起訴状一本主義についての例外をあげた判例としては、次のものが有名です。






最判昭27・3・5)

「裁判官が、あらかじめ事件についてなんらの先入的心証を抱くことなく、白紙の状態において、第一回の公判期日に臨み、その後の審理の進行に従い、証拠によつて事案の真相を明らかにし、もつて公正な判決に到達するという手続の段階を示したものであつて、直接審理主義及び公判中心主義の精神を実現するとともに、裁判官の公正を訴訟手続上より確保し、よつて公平な裁判所の性格を客観的にも保障しようとする重要な目的をもつているのである。すなわち、公訴犯罪事実について、裁判官に予断を生ぜしめるおそれのある事項は、起訴状に記載することは許されないのであつて、かかる事項を起訴状に記載したときは、これによつてすでに生じた違法性は、その性質上もはや治癒することができないものと解するを相当とする。」
「もつとも被告人の前科であつても、それが、公訴犯罪事実の構成要件となつている場合(例えば常習累犯窃盗)又は公訴犯罪事実の内容となつている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)等は、公訴犯罪事実を示すのに必要であつて、これを一般の前科と同様に解することはできないからこれを記載することはもとより適法である。」





なお平成16年改正で新設された公判前整理手続(316条の2〜)では、第1回公判期日前に受訴裁判所が当事者の主張や証拠を知ることとなりますが(316条の5)、両当事者が等しく参加する場であり、証拠の信用性を判断することではないこと、公判前整理手続は事件の実体についての心証形成を目的とせず、実際に心証を形成することはないから、起訴状一本主義に反しないとされています。





(参考条文)
316条の5
公判前整理手続においては、次に掲げる事項を行うことができる。
一  訴因又は罰条を明確にさせること。
二  訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許すこと。
三  公判期日においてすることを予定している主張を明らかにさせて事件の争点を整理すること。
四  証拠調べの請求をさせること。
五  前号の請求に係る証拠について、その立証趣旨、尋問事項等を明らかにさせること。
六  証拠調べの請求に関する意見(証拠書類について第三百二十六条の同意をするかどうかの意見を含む。)を確かめること。
七  証拠調べをする決定又は証拠調べの請求を却下する決定をすること。
八  証拠調べをする決定をした証拠について、その取調べの順序及び方法を定めること。
九  証拠調べに関する異議の申立てに対して決定をすること。
十  第三目の定めるところにより証拠開示に関する裁定をすること。
十一  公判期日を定め、又は変更することその他公判手続の進行上必要な事項を定めること。








うちの学校の先生は、起訴状一本主義がすきでした(笑)