ロースクール受験のために司法試験の過去問をやってみたりしています。


民訴より刑訴が好きです。



甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件に関し、同人方を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受けた警察官が同人方に捜索に赴いたところ、玄関が施錠されていた。そこで、証拠が隠滅されることをおそれた警察官は、「宅配便です。」と声をかけ、甲にドアを開けさせた。警察官は、甲に同許可状を示して捜索に着手したところ、その場に居合わせた乙があわてて退出しようとしたため、これを制止した上、乙の上着のポケットに手を差し入れて捜索し、ビニール袋に入った覚せい剤を発見したので、これを差し押さえた。
 この警察官の行為は、適法か。(平成12年第1問)

一.警察官が「宅配便です」と偽ってドアを開けさせた行為について
1.令状による捜索差押えに際しては、処分を受ける者に対して当該令状を呈示する必要がある(222条1項、110条)。
この点、令状の呈示時期は法文上明確ではないが、令状呈示を求める110条の趣旨は、捜索差押手続の公正を保持し、執行を受ける者の利益を尊重することにあると解されるため、執行の着手前に令状を提示すべきと解する。
では、222条1項の準用する111条1項は、捜索差押令状の執行に「必要な処分」をすることができるとしているが、本問のように令状呈示前に、令状呈示のために必要な措置をとることが含まれるか。
思うに、ドアが施錠されていた場合、令状呈示をするまでは何もなしえないとするのでは、捜査官が内部に入るまでに、証拠が隠滅され捜索が実効性のないものになる可能性があり、現場保存・動静の把握等の必要がある。
また、法は、捜索を受ける者に対しても、一定の受忍的協力態度に出ることを予定し、かつ、捜査官が処分を受ける者に直接面と向かい令状呈示できる状況にあることを前提としているものと解される。
よって、令状呈示前に、令状提示のために必要な措置をとることも、「必要な処分」にあたる。
2.そうだとしても、「宅配便です。」と欺罔してドアを開けさせた行為は「必要な処分」といえるか。
思うに、111条は、捜索を受ける者が受忍的協力態度をとらない場合において、社会通念上相当な措置を採ることを認めたものである。
よって、被処分者に、捜索に拒否的態度をとるおそれがあり、証拠隠滅の危険性があれば、社会通念上相当な措置をとることは「必要な処分」にあたると解する。
そして、薬物犯罪では、対象物件である薬物等を、廃棄等の手段により短時間で容易に隠滅することが可能であり、証拠隠滅の可能性が非常に高く、宅配便の配達を装って玄関ドアを開けさせる行為は、有形力を行使したものでも財産的損害を与えるものでもなく、111条の「錠をはずし」と比べても、平和裡に行われた至極穏当なものであって、手段方法において社会通念上相当といえる。
よって、本問のように宅配便を装ってドアを開けさせる行為も「必要な処分」として適法といえる。
二.現場に居合わせた第三者乙が退出しようとしたのを制止した行為について
この点、捜索差押令状の執行中は、何人に対してもその場所に出入りを禁止することができるとされている(222条1項、112条1項)。
よって、当該行為は適法といえる。
三.現場に居合わせた第三者乙の上着のポケットに手を差し入れて捜索し、覚せい剤を差し押さえた行為について
1.甲方という場所に対する捜索差押許可状により、その場に居合わせた第三者乙の身体を捜索することができるかが問題となる。
思うに、捜索対象として場所と身体とは区別されており(222条1項、102条、219条)、身体の捜索により侵害される利益(人格の尊厳)は、場所の捜索により侵害される利益(住居の平穏)より重大で、保護の必要も大きいといえる。
また、第三者の携帯物は、令状発布の際、捜索場所に当然伴うものとして令状裁判官の審査を受けたものとみなすことはできない。
よって、場所に対する捜索令状により、その場に居合わせた第三者の身体を捜索することは、原則として違法であると解する。
もっとも、居合わせた者が差押さえの目的物を身体に隠すのを目撃したような場合を考えれば、一切許されないというのも不合理であり、真実発見を害する。
そこで、捜索場所に居合わせた者が捜索の目的物を隠匿していると認めるに足りる合理的理由のあるような場合には、捜索令状を執行するための現場保存的措置たる「必要な処分」(222条1項・111条1項)として例外的に許されると解する。
2.本問では、乙はあわてて退出しようとしたに過ぎず、捜索の目的物を隠匿していると認めるに足りる合理的理由があるとは言えない。
よって、甲方を捜索場所とする捜索令状によって、乙の身体を捜索することはできない。
3.以上により、本問において、捜査官が乙の上着のポケットに手を入れて身体捜索をした行為は違法であり、したがって、そのあとに引き続いて行われた覚醒剤の差押行為も違法であると解する。
以上