議決権の代理行為について調べてみました。


性懲りもなく会社法です。
習うより慣れろ(∩´∀`∩)


株主の議決権は、代理人に行使させることも可能です(310条)。株主にできるだけ議決権行使が可能なようにする趣旨です。


310条(議決権の代理行使)
1項:株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。この場合においては、当該株主又は代理人は、代理権を証明する書面を株式会社に提出しなければならない。
2項:前項の代理権の授与は、株主総会ごとにしなければならない。
3項:第一項の株主又は代理人は、代理権を証明する書面の提出に代えて、政令で定めるところにより、株式会社の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。この場合において、当該株主又は代理人は、当該書面を提出したものとみなす。
4項:株主が第二百九十九条第三項の承諾をした者である場合には、株式会社は、正当な理由がなければ、前項の承諾をすることを拒んではならない。
5項:株式会社は、株主総会に出席することができる代理人の数を制限することができる。
6項:株式会社は、株主総会の日から三箇月間、代理権を証明する書面及び第三項の電磁的方法により提供された事項が記録された電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
7項:株主(前項の株主総会において決議をした事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。次条第四項及び第三百十二条第五項において同じ。)は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
1号 代理権を証明する書面の閲覧又は謄写の請求
2号 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求


下級審では、総会の定足数を確保するという経営者側の視点から、同条の趣旨を述べたものもあります。


会社法は、代理人資格については何も規定をおいていません。
そこで、議決権行使の代理人資格を株主に限定する定款規定の効力の有無、すなわち、310条1項の適用に例外を認めることは可能かが論点になります。


判例もちょこちょこあります。
まず、原則有効とするもの。


(最判昭43・11・1)

同条項は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加えることまでも禁止したものとは解されず、右代理人は株主にかぎる旨の所論上告会社の定款の規定は、株主総会が、株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨にでたものと認められ、合理的な理由による相当程度の制限ということができるから、右商法二三九条三項に反することなく、有効であると解するのが相当である。


上の判例は、病気の株主の妻に代理人の資格を認めないことが違法ではないとしたものです。
239条は、現310条のことです。
有効とするのを限定的に捉える判例もあります。


(最判昭51・12・24)

「原審が適法に確定したところによれば、被上告会社の定款には、「株主又はその法定代理人は、他の出席株主を代理人としてその議決権を行使することができる。」旨の規定があり、被上告会社の本件株主総会において、株主である新潟県直江津市日本通運株式会社がその職員又は従業員に議決権を代理行使させたが、これらの使用人は、地方公共団体又は会社という組織のなかの一員として上司の命令に服する義務を負い、議決権の代理行使に当たつて法人である右株主の代表者の意図に反するような行動をすることはできないようになつているというのである。このように、株式会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合において、当該会社の株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、原審認定のような事実関係の下においては、右定款の規定に反しないと解するのが相当である。けだし、右のような定款の規定は、株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、株主である県、市、株式会社がその職員又は従業員を代理人として株主総会に出席させた上、議決権を行使させても、特段の事情のない限り、株主総会が攪乱され会社の利益が害されるおそれはなく、かえつて、右のような職員又は従業員による議決権の代理行使を認めないとすれば、株主としての意見を株主総会の決議の上に十分に反映することができず、事実上議決権行使の機会を奪うに等しく、不当な結果をもたらすからである。」


ちなみに、この判例は、取消訴訟の追加主張することの可否についても有名な判例です。


株主総会決議取消しの訴えを提起した後、商法二四八条一項所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、取消しを求められた決議は、たとえ瑕疵があるとしても、取り消されるまでは一応有効のものとして取り扱われ、会社の業務は右決議を基礎に執行されるのであつて、その意味で、右規定は、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるためその取消しの訴えを提起することができる期間を決議の日から三カ月と制限するものであり、また、新たな取消事由の追加主張を時機に遅れない限り無制限に許すとすれば、会社は当該決議が取り消されるのか否かについて予測を立てることが困難となり、決議の執行が不安定になるといわざるを得ないのであつて、そのため、瑕疵のある決議の効力を早期に明確にさせるという右規定の趣旨は没却されてしまうことを考えると、右所定の期間は、決議の瑕疵の主張を制限したものと解すべきであるからである。」


この問題は、弁護士とかならいいんじゃないの??という事案で、下級審で意見がいろいろあったりで、複雑みたいです。認められるとした判例もありますが、次に挙げる判例は反対してます。確かになーと思ってしまいます。


(宮崎地判平14・4・25)

「確かに,弁護士は一般に社会的信用が高く法律知識が豊富であるから違法・不当な行為をしない蓋然性が高いものであるし,A弁護士についても,その社会的信用の高さ等を考慮すれば,総会をかく乱するおそれは非常に小さいというべきである。しかしながら,原告主張のように,株式会社は総会をかく乱するおそれのない職種の者であれば非株主であっても入場を許さなければならないと解すると,株式会社は,総会に非株主代理人が来場した際には,その都度その者の職種を確認し,総会をかく乱するおそれの有無について個別具体的に検討しなければならないことになる。どのような職種の者であれば総会をかく乱するおそれがないといえるかは,明確な基準がなく,極めて難しい判断である。また,株主数が多い株式会社は,総会開会前の限られた時間に多数の来場者に応対しなければならないところ,受付において非株主代理人が総会をかく乱するおそれの有無について個別具体的に判断することは,受付事務を混乱させ,円滑な総会運営を阻害するおそれが高いというべきである。しかも,原告主張のような実質的基準を持ち込むと,かえって,経営陣が自らを支持する株主の代理人については総会をかく乱するおそれがないとして入場を許し,そうでない代理人については入場を許さないなど恣意的差別的判断を行い株主の権利が害されるおそれもある。」






この件に関して、精神的苦痛を伴ったといって、損害賠償請求まで起こした人がいるのも驚きです。
下級審ですが、人格権の侵害とまではいえないとして棄却してます。

二重起訴の禁止について調べてみました。


民事訴訟法でもまだわかりやすい二重起訴の禁止について適当にまとめてみました。


142条(重複する訴えの提起の禁止)
裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない。


二重起訴禁止の趣旨は、1 被告人の応訴の煩、2 訴訟不経済、3 判決の矛盾のおそれといった弊害を招くのを防ぐことです。
なので、二重起訴に当たるか否かは、1 当事者が同じであるかどうか、2 審判対象が同一であるかどうかによって判断されます。
もっとも、確認の訴えと給付の訴えのような審判形式が異なる場合にも、請求原因(請求の基礎をなす権利関係)が同じであれば、判決の矛盾・抵触のおそれがあるから142条に抵触します。


なお、判決の矛盾・抵触が防止できれば良いので、後の訴えを直ちに不適法として却下せずに弁論の併合で足りるらしいです。


152条(口頭弁論の併合等)
1項:裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消すことができる。
2項:裁判所は、当事者を異にする事件について口頭弁論の併合を命じた場合において、その前に尋問をした証人について、尋問の機会がなかった当事者が尋問の申出をしたときは、その尋問をしなければならない


別訴で請求中の債権を自働債権とする相殺の抗弁と二重起訴との関係も重要です。


相殺の抗弁が先行する場合は、後訴は「継続する事件」に当たらず、訴訟提起が先行する場合は、相殺の抗弁は「訴えを提起」したことにならず、142条の直接適用はできません。
しかし、相殺の抗弁には既判力が生じるため(114条2項)、判決の矛盾・抵触が生じるおそれがあります。なので、142条を類推適用すべきであるとされています。


(最判平3・12・17)

係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。すなわち、民訴法二三一条が重複起訴を禁止する理由は、審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされていること(同法一九九条二頃)、相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法二三一条の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものであり、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様である。





民事訴訟法の判例は、旧法なので条文がわかりにくいです。

続・新株予約権について調べてみました。

会社法は学校でも週に2回あります。
しかも、前期に4単位分、後期に4単位分。
これでも終わらずに、休講がなかったにもかかわらず、2回の補講が決定しました。会社法―。゜(PД`q)゜。



最近、すごく大事な判例が出ました。
ブルドックソース事件です。
企業買収防衛策としての新株予約権無償割当てに対する差止仮処分申立が却下されました。
株主平等原則(109条)とも関連が深い事例です。


109条(株主の平等)
1項:株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2項:前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3項:前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。


この判旨のポイントは次の5つです。


1 株主平等の原則の趣旨は株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合に及ぶか
2 株主に対する差別的取扱いが株主平等の原則の趣旨に反しないか
3 特定の株主による経営支配権の取得に伴い、株式会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されることになるか否かについての審理判断の方法
4 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが、株主平等の原則の趣旨に反せず、会社法247条1号所定の「法令又は定款に違反する場合」に該当しないか
5 株式会社が特定の株主による株式の公開買付けに対抗して当該株主の持株比率を低下させるためにする新株予約権の無償割当てが,会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当しないとされた事例


色分けに意味はありません。ただしましまにしただけです。
247条関連については、前日のやつに書いた、「ニッポン放送事件」が有名です。
これも最近の事件です。


(東京高裁平17・3・23)「ニッポン放送事件」

会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行がされた場合には,原則として商法280条ノ39第4項,280条ノ10の「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行に該当するが,株式の敵対的買収者が,(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(グリーンメイラー),(2)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権,ノウハウ,企業秘密情報,主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど,いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合,(3)会社経営を支配した後に,当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合,(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産,有価証券など高額資産等を売却等処分させ,その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など,当該会社を食い物にしようとしている場合には,取締役会は,対抗手段として必要性や相当性が認められる限り,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許される。
乙社が甲社の株式の敵対的買収を行って甲社の経営支配権に現に争いが生じている場面において行われた甲社の新株予約権の発行は,甲社の経営支配権を争う乙社の持株比率を低下させ,現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるA社による甲社の経営支配権を確保することを主要な目的として行われたものであり,乙社が甲社の事業や資産を食い物にするような目的で株式の敵対的買収を行っている確たる証拠がないという判示の事情の下では,これを正当化する特段の事情がなく,商法280条ノ39第4項,280条ノ10の「著シク不公正ナル方法」による発行に当たる。


第四款 募集新株予約権の発行をやめることの請求
247条
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
1号 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
2号 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合



では、ブルドックソース事件を。長いです。



(最決平19・8・7)

新株予約権無償割当てが新株予約権者の差別的な取扱いを内容とするものであっても,これは株式の内容等に直接関係するものではないから,直ちに株主平等の原則に反するということはできない。しかし,株主は,株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けるところ,法278条2項は,株主に割り当てる新株予約権の内容及び数又はその算定方法についての定めは,株主の有する株式の数に応じて新株予約権を割り当てることを内容とするものでなければならないと規定するなど,株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としているものと解されるのであって,法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は,新株予約権無償割当ての場合についても及ぶというべきである。」
「株主平等の原則は,個々の株主の利益を保護するため,会社に対し,株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱うことを義務付けるものであるが,個々の株主の利益は,一般的には,会社の存立,発展なしには考えられないものであるから,特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の存立,発展が阻害されるおそれが生ずるなど,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には,その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても,当該取扱いが衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り,これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。」
「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ,株主総会の手続が適正を欠くものであったとか,判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり,虚偽であったなど,判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである。」
「本件新株予約権無償割当ては,抗告人関係者も意見を述べる機会のあった本件総会における議論を経て,抗告人関係者以外のほとんどの既存株主が,抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認したものである。さらに,抗告人関係者は,本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより,その対価として金員の交付を受けることができ,また,これが実行されない場合においても,相手方取締役会の本件支払決議によれば,抗告人関係者は,その有する本件新株予約権の譲渡を相手方に申し入れることにより,対価として金員の支払を受けられることになるところ,上記対価は,抗告人関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので,本件新株予約権の価値に見合うものということができる。これらの事実にかんがみると,抗告人関係者が受ける上記の影響を考慮しても,本件新株予約権無償割当てが,衡平の理念に反し,相当性を欠くものとは認められない。なお,相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得する場合に,相手方は抗告人関係者に対して多額の金員を交付することになり,それ自体,相手方の企業価値をき損し,株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではないが,上記のとおり,抗告人関係者以外のほとんどの既存株主は,抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐためには,上記金員の交付もやむを得ないと判断したものといえ,この判断も尊重されるべきである。」
「株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが,会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく,専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には,その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきであるが,本件新株予約権無償割当てが,そのような場合に該当しないことも,これまで説示したところにより明らかである。」



相当性、会社の企業価値のき損等の言葉がキーワードになりそうです。
さっきのポイント、1〜5まで順番に答えになってる判例要旨をコピペします。



1 会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は,株主に対して新株予約権の無償割当てをする場合にも及ぶ。
2 特定の株主による経営支配権の取得に伴い,株式会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されることになるような場合に,その防止のために上記特定の株主を差別的に取り扱うことは,衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り,会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨に反しない。
3 特定の株主による経営支配権の取得に伴い,株式会社の企業価値がき損され,株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,株主総会における株主自身の判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである。
4 株式会社Yが株主であるXによる経営支配権取得のための株式の公開買付けに対抗して新株予約権の無償割当てを行うに当たり,新株予約権の内容につき,X及びその関係者以外の株主は割り当てられた新株予約権を行使することなどによって株式の交付を受けることができるが,X及びその関係者は割り当てられた新株予約権を行使することができず,Yは金員を交付することによって上記新株予約権を取得することができる旨の差別的な条件及び条項が定められていた場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,上記新株予約権の無償割当ては,会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨に反せず,同法247条1号所定の「法令又は定款に違反する場合」に該当しない。
(1) 上記新株予約権の無償割当てを行うことは,株主総会においてX及びその関係者以外のほとんどの株主の賛成を得て可決されたものであり,これらの株主は,Xによる経営支配権の取得が企業価値をき損し,株主の共同の利益を害することになると判断したものといえる。
(2) 上記総会の手続に適正を欠く点があったとはいえず,また,上記判断はX及びその関係者において経営支配権取得後の経営方針を明示せず,投下資本の回収方針についても明らかにしなかったことなどによるものであるとうかがわれ,当該判断にその正当性を失わせるような重大な瑕疵はない。
(3) 上記新株予約権の無償割当ては,X及びその関係者も意見を述べる機会のあった上記総会における議論を経てX及びその関係者以外のほとんどの株主が是認したものである上,YがX及びその関係者に割り当てられた新株予約権を取得するに当たり交付する金員は当該新株予約権の価値に見合うものであって,衡平の理念に反し,相当性を欠くものではない。

5 株式会社Yが株主であるXによる経営支配権取得のための株式の公開買付けに対抗して新株予約権の無償割当てを行うに当たり,新株予約権の内容につき,X及びその関係者以外の株主は割り当てられた新株予約権を行使することなどによって株式の交付を受けることができるが,X及びその関係者は割り当てられた新株予約権を行使することができず,Yは金員を交付することによって上記新株予約権を取得することができる旨の差別的な条件及び条項が定められていた場合において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,上記新株予約権の無償割当ては,経営支配権を取得しようとする行為に対する対応策として事前に定められ,示されていなかったことなどを考慮しても,会社法247条2号所定の「著しく不公正な方法により行われる場合」に該当しない。
(1) 上記新株予約権の無償割当ては,株主平等の原則の趣旨に反するものではない。
(2) 上記新株予約権の無償割当ては,Xによる経営支配権の取得の可能性が現に生じたために株主総会において企業価値のき損を防ぎ,株主の共同の利益の侵害を防ぐためには多額の支出をしても採用する必要があると判断されて行われたもので,緊急の事態に対処するための措置である。また,X及びその関係者には,割り当てられた新株予約権の価値に見合う対価が支払われる。
(3) 上記新株予約権の無償割当ては,専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するために行われるものではない。



裁判所の判例検束はとっても便利です。







ニッポン放送事件」と「ブルドックソース事件」で、新株予約権は敵なしです。
うそです。少なくとも自分は苦手です。

新株予約権について調べてみました。

新株予約権とは、会社に対して行使することによりその会社の株式の交付を受けることができる権利を言います。


2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
21号 新株予約権 株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。


公開会社の場合、新株予約券の発行は、有利な条件・金額による場合を除き、取締役会の決議により決定されます。


240条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第二百三十八条第三項各号に掲げる場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。

238条(募集事項の決定)
2項:募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。


募集事項の通知・公告も必要です。


240条(公開会社における募集事項の決定の特則)
2項:公開会社は、前項の規定により読み替えて適用する第二百三十八条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めた場合には、割当日の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項を通知しなければならない。
3項:前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。


非公開会社の場合には、原則として株主総会の特別決議または種類株主総会の決議により発行が決定されます。(238条2項4項、309条2項6号、324条2項3号)


238条(募集事項の決定)
2項:募集事項の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
4項:種類株式発行会社において、募集新株予約権の目的である株式の種類の全部又は一部が譲渡制限株式であるときは、当該募集新株予約権に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を目的とする募集新株予約権を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。


309条(株主総会の決議)
2項:前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
6号 第二百三十八条第二項、第二百三十九条第一項、第二百四十一条第三項第四号及び第二百四十三条第二項の株主総会


324条(種類株主総会の決議)
2項:前項の規定にかかわらず、次に掲げる種類株主総会の決議は、当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
3号 第二百三十八条第四項及び第二百三十九条第四項の種類株主総会



新株予約権の有利発行についても、募集株式の有利発行に関する規定(199条2項3項)に準じて、規定が設けられています(238条3項)。


199条(募集事項の決定)
2項:前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3項:第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。


238条(募集事項の決定)
3項:次に掲げる場合には、取締役は、前項の株主総会において、第一号の条件又は第二号の金額で募集新株予約権を引き受ける者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
1号 第一項第二号に規定する場合において、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるとき。
2号 第一項第三号に規定する場合において、同号の払込金額が当該者に特に有利な金額であるとき。



新株予約券の発行差止め請求についても規定があります。


第四款 募集新株予約権の発行をやめることの請求
247条
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。
1号 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合
2号 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合



「著しく不公正な方法」の意義については、判例があります。


(東京高裁平17・3・23)「ニッポン放送事件」

会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において,株式の敵対的買収によって経営支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ,現経営者又はこれを支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株予約権の発行がされた場合には,原則として商法280条ノ39第4項,280条ノ10の「著シク不公正ナル方法」による新株予約権の発行に該当するが,株式の敵対的買収者が,(1)真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず,ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(グリーンメイラー),(2)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権,ノウハウ,企業秘密情報,主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど,いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合,(3)会社経営を支配した後に,当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合,(4)会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産,有価証券など高額資産等を売却等処分させ,その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合など,当該会社を食い物にしようとしている場合には,取締役会は,対抗手段として必要性や相当性が認められる限り,経営支配権の維持・確保を主要な目的とする新株予約権の発行を行うことが正当なものとして許される。
乙社が甲社の株式の敵対的買収を行って甲社の経営支配権に現に争いが生じている場面において行われた甲社の新株予約権の発行は,甲社の経営支配権を争う乙社の持株比率を低下させ,現経営者を支持し事実上の影響力を及ぼしている特定の株主であるA社による甲社の経営支配権を確保することを主要な目的として行われたものであり,乙社が甲社の事業や資産を食い物にするような目的で株式の敵対的買収を行っている確たる証拠がないという判示の事情の下では,これを正当化する特段の事情がなく,商法280条ノ39第4項,280条ノ10の「著シク不公正ナル方法」による発行に当たる。








判例長い…。
会社法4日連続はやです。
でもまだ最近の超重要判例が残ってます。あと1日は会社法

続々・募集株式について調べてみました。


もう連続会社法にあきてます。条文多いんだよーやだよー。


会社は、201条3項4項の通知・公告のほかに、割当日の公告・通知もしなければなりません。


202条(株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合)
4項:株式会社は、第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、同項第二号の期日の二週間前までに、同項第一号の株主(当該株式会社を除く。)に対し、次に掲げる事項を通知しなければならない。
1号 募集事項
2号 当該株主が割当てを受ける募集株式の数
3号 第1項第2号の期日


なお、この規定の趣旨は、株式譲受人で、まだ名義書換をしていない者に名義書換を促すことにあるので、この公告を欠いた新株発行は、取引の安全を重視して、有効とするのが有力です。


会社が法令・定款に違反して、新株を発行してしまった場合の事後措置としては新株発行無効の訴えを会社に提起することができます(828条1項2号、2項2号)。


828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
1項:次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。
2号 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
2項:次の各号に掲げる行為の無効の訴えは、当該各号に定める者に限り、提起することができる。
2号 前項第二号に掲げる行為 当該株式会社の株主等


(最判平9・1・28)

「商法が、このように、出訴期間及び原告適格の制限があるとともに、認容判決に対世効がある一方で遡及効はない特別の訴えを創設した趣旨は、新株発行は、会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があるために、新株発行に無効原因がある場合であっても、その新株発行を前提として形成されていく新たな法律関係をいつまでも覆し得ることとし、あるいは遡及して覆し得ることとするのは相当でなく、また、認容判決の効力が訴訟当事者間においてのみ相対的に生ずるとするのも相当でないことから、新株発行に伴う法律関係を早期かつ画一的に確定することにあると解される。」


株式の発行が存在しない場合には、誰でもいつでも、株式発行不存在確認の訴えを提起できます(829条)。


829条(新株発行等の不存在の確認の訴え)
次に掲げる行為については、当該行為が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
1号 株式会社の成立後における株式の発行
2号 自己株式の処分
3号 新株予約権の発行


判例はさっきと同じです。


(最判平9・1・28)

「商法は、このように新株発行無効の訴えを創設しているが、新株発行不存在確認の訴えについては何ら規定するところがない。しかしながら、新株発行が無効であるにとどまらず、新株発行の実体が存在しないというべき場合であっても、新株発行の登記がされているなど何らかの外観があるために、新株発行の不存在を主張する者が訴訟によってその旨の確認を得る必要のある事態が生じ得ることは否定することができない。このような新株発行の不存在は、新株発行に関する瑕疵として無効原因以上のものであるともいうことができるから、新株発行の不存在についても、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってこれを確定する必要がある。したがって、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する余地があり、この場合、新株発行無効の訴えに対比して出訴期間、原告適格等の訴訟要件が問題となるが、この訴えは少なくとも、新株発行無効の訴えと同様に、会社を被告としてのみ提起することが許されるものと解すべきである。」



公正さを欠く金額が払い込まれた場合、会社の存立基盤が危うくなり、会社債権者や株主の利益が害されるおそれがあります。そこで、各種の法規制が設けられています。


212条(不公正な払込金額で株式を引き受けた者等の責任)
1項:募集株式の引受人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める額を支払う義務を負う。
1号 取締役(委員会設置会社にあっては、取締役又は執行役)と通じて著しく不公正な払込金額で募集株式を引き受けた場合 当該払込金額と当該募集株式の公正な価額との差額に相当する金額
2号 第二百九条の規定により募集株式の株主となった時におけるその給付した現物出資財産の価額がこれについて定められた第百九十九条第一項第三号の価額に著しく不足する場合 当該不足額


責任追及には責任追及等の訴え(株主代表訴訟)が適用されます(847条1項)。


847条(責任追及等の訴え)
六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。以下この条において同じ。)若しくは清算人の責任を追及する訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。


違法な募集株式により株主等に損害が出た場合には、取締役は対第三者責任を負うことになります(429条1項)。


429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
1項:役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。








やっと募集株式については一通り終わりです。
でもまだ、新株予約権の発行という類似した論点が残ってます。
会社嫌い。゜(PД`q)゜。

続・募集株式について調べてみました。


きのうの続きです。経済面における株主の利益保護も重要論点です。


まず第三者に対する有利価格発行規制があります。
「特に有利な金額」で募集がなされると、既存株主が経済的損失を被るからです。


199条(募集事項の決定)
3項:第一項第二号(募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法)の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。


この規制は公開会社にも及びます。
「特に有利な金額」でなく発行する場合には、取締役会決議で足りても、「特に有利な金額」で発行する場合には、株主総会の特別決議によって承認させる必要があります(199条2項、201条1項、309条2項5号)。


199条(募集事項の決定)
1項:株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
1号 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
2号 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
3号 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
4号 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
5号 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2項:前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


309条(株主総会の決議)
2項:前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
5号 第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号及び第二百四条第二項の株主総会


「特に有利な価格」ではなく、公正な発行価格の場合、総会の特別決議は不要です。


(東京高裁昭46・1・28)

「特に有利な発行価額とは通常新株を発行する場合に発行価額とすべき価額、つまり公正な発行価額と比較して特に低い価額をいい、しかして公正な発行価額というのは、新株の発行が会社の資金調達のために行われ、従つて新株の全部について引受および払込がなされることを要する反面、新株の発行によつて旧株主の有する株式の価額が低落し旧株主が不利益を被ることを極力防止することを要する点にかんがみるときは、新株の発行により企図される資金調達の目的が達ぜられる限度で旧株主にとり最も有利な価額であると解される」
「公正な価額であるか否かは発行価額を決定した時点において判断すべきものであり、株式市場の動向については払込期日までの予め推定される株式の価額を考慮すれば足り、遠い将来における株価の変動をも予測したうえで判断すべきものではない」



有利発行については、総会決議を経ずに発行してしまった場合の発行の効力も重要論点です。
株主の利益保護を優先すると無効にすべきですが、判例は取引の安全を重視して、有効としているようです。


(最判昭40・10・8)

新株引受権を株主以外の者に付与することについては株主総会の特別決議を要するのであるが、既に取締役会の決定に基づき対外的に会社の代表権限を有する取締役が当該新株を発行したものであるかぎり、右第三者引受についての株主総会の特別決議がなされなかつたことは、新株発行無効の原因となるものではないと解すべきである。けだし、新株の発行は、元来株式会社の組織に関するものではあるが、授権資本制度を採用する現行商法が新株発行の権限を取締役会に委ねており、たゞ株主以外の者に新株引受権を与える場合には、株式の額面無額面の別、種類、数及び最低発行価額について株主総会の特別決議を要するに過ぎないものとしている点等にかんがみるときは、新株発行は、むしろ、会社の業務執行に準ずるものとして、取り扱つているものと解するのを相当とすべく、右株主総会の特別決議の要件も、取締役会の権限行使についての内部的要件であつて、取締役会の決議に基づき代表権を有する取締役により既に発行された新株の効力については、会社内部の手続の欠缺を理由にその効力を否定するよりは右新株の取得者および会社債権者の保護等の外部取引の安全に重点を置いてこれを決するのが妥当であり、従つて新株発行につき株主総会の決議のなかつた欠缺があつても、これをもつて新株の発行を無効とすべきではなく、取締役の責任問題等として処理するのが相当であるからである。



そのほかにも、会社法は株主の利益保護のために、各種の法規定を設けています。


第五款 募集株式の発行等をやめることの請求
210条
次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
1号 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合
2号 当該株式の発行又は自己株式の処分が著しく不公正な方法により行われる場合


新株発行差止請求権です。総会の特別議決を経ていない有利発行は法令違反に、現経営陣の支配維持を目的とした反対派株主の議決権の割合を低下させるための発行は著しく不公正な方法にあたります。
差止処分に違反してなされた新株発行は無効となります。


(最判平5・12・16)

「本件新株発行に対する差止請求の訴えは、被上告人Aが本件仮処分命令を得た後、新株発行がされることにより持株比率の減少等の不利益を受けるとする被上告人らによって、本件新株発行を阻止する目的の下に提起されたものであって、被上告人らは、右訴えの提起により、万一右仮処分命令に違反して新株が発行された場合には右新株発行の効力を争い、仮処分命令違反をその理由とする意思をも表明していると認められるから、本件で変更された新株発行無効の訴えについては、新株発行差止請求の訴え提起の時に提起されたものと同視することができる特段の事情が存するものというべきである。」
「商法二八〇条ノ一〇に基づく新株発行差止請求訴訟を本案とする新株発行差止めの仮処分命令があるにもかかわらず、あえて右仮処分命令に違反して新株発行がされた場合には、右仮処分命令違反は、同法二八〇条ノ一五に規定する新株発行無効の訴えの無効原因となるものと解するのが相当である。けだし、同法二八〇条ノ一〇に規定する新株発行差止請求の制度は、会社が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正な方法によって新株を発行することにより従来の株主が不利益を受けるおそれがある場合に、右新株の発行を差し止めることによって、株主の利益の保護を図る趣旨で設けられたものであり、同法二八〇条ノ三ノ二は、新株発行差止請求の制度の実効性を担保するため、払込期日の二週間前に新株の発行に関する事項を公告し、又は株主に通知することを会社に義務付け、もって株主に新株発行差止めの仮処分命令を得る機会を与えていると解されるのであるから、この仮処分命令に違反したことが新株発行の効力に影響がないとすれば、差止請求権を株主の権利として特に認め、しかも仮処分命令を得る機会を株主に与えることによって差止請求権の実効性を担保しようとした法の趣旨が没却されてしまうことになるからである。」



また、公開会社においては、所有と経営の分離がなされているため、既存株主は、持株比率に関しては一般的に関心が薄く、会社の資金調達目的が優先されます。よって、発行可能株式総数の範囲であれば、取締役会決議によって、募集株式の発行ができます(201条1項)。きのうのコピペです。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


この場合、会社は、株主に対して募集事項を通知ないし公告しなければなりません(201条3項、4項)。
株主に募集事項を知らせることにより、株主がその内容を吟味し、その内容に疑問を生じれば、募集株式の発行の差止請求ができるようにするためです。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
3項:公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。
4項:前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。


この通知・公告を欠く新株発行の効力も重要論点です。
この場合、通知・公告を欠いても、差止め請求がなされなかった、または請求が認容されないと認められる場合でない限り、無効事由となります。


(最判平9・1・28)

「新株発行に関する事項の公示(同法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知)は、株主が新株発行差止請求権(同法二八〇条ノ一〇)を行使する機会を保障することを目的として会社に義務付けられたものであるから(最高裁平成元年(オ)第六六六号同五年一二月一六日第一小法廷判決・民集四七巻一〇号五四二三頁参照)、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解するのが相当であり、右(三)及び(四)の点に照らせば、本件において新株発行差止請求の事由がないとはいえないから、結局、本件の新株発行には、右(一)の点で無効原因があるといわなければならない。」







いちおう重要っぽいところはまとめましたが…まだある。゜(PД`q)゜。
会社法嫌い嫌い。


明日からまた学校です。学校は好きです。

募集株式について調べてみました。


株主以外の第三者に対する美醜株式および新株予約権の発行に関し、株主の利益を保護するために、会社法はいかなる措置を講じているのかが重要論点です。
募集株式の発行とは、会社成立後に新たに株式を発行またはその有する自己株式を処分することをいい、この発行がなされると、既存の株主に株価下落による経済的損失、会社支配率の低下という不利益があるため、既存株主保護を考慮する必要があるのです。


株式会社は、資金調達目的のほか、企業提携、現経営者の支配権維持などの手段として利用されます。
特に最近では、敵対的企業買収への対抗策として、よくこの方法が用いられています。



まず、会社の支配面の点における株主の利益保護として、結構たくさん条文があります。


37条(発行可能株式総数の定め等)
3項:設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。


113条(発行可能株式総数)
3項:定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合には、変更後の発行可能株式総数は、当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることができない。ただし、株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。


いずれも既存株主の持株比率の低下に歯止めをかける趣旨のものです。


非公開会社の場合、所有と経営の分離はなされておらず、既存株主の持株比率に対する関心が高いため、募集株式を発行するためには株主総会の特別決議が必要です(199条2項、201条1項、309条2項5号)。


199条(募集事項の決定)
1項:株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
1号 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
2号 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
3号 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
4号 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
5号 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2項:前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3項:第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


309条(株主総会の決議)
2項:前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
5号 第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号及び第二百四条第二項の株主総会



募集株式として譲渡制限株式を発行する会社においては、既存株主にとって、誰が株主になるかも関心が高いため、株主総会の特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)でその割り当てを決定する必要があります(204条2項)。


204条(募集株式の割当て)
1項:株式会社は、申込者の中から募集株式の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる募集株式の数を定めなければならない。この場合において、株式会社は、当該申込者に割り当てる募集株式の数を、前条第二項第二号の数よりも減少することができる。
2項:募集株式が譲渡制限株式である場合には、前項の規定による決定は、株主総会取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。



公開会社においては、所有と経営の分離がなされているため、既存株主は、持株比率に関しては一般的に関心が薄く、会社の資金調達目的が優先されます。よって、発行可能株式総数の範囲であれば、取締役会決議によって、募集株式の発行ができます(201条1項)。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
1項:第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。この場合においては、前条の規定は、適用しない。


この場合、会社は、株主に対して募集事項を通知ないし公告しなければなりません(201条3項、4項)。
株主に募集事項を知らせることにより、株主がその内容を吟味し、その内容に疑問を生じれば、募集株式の発行の差止請求ができるようにするためです。このことも結構重要です。


201条(公開会社における募集事項の決定の特則)
3項:公開会社は、第一項の規定により読み替えて適用する第百九十九条第二項の取締役会の決議によって募集事項を定めたときは、同条第一項第四号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の二週間前までに、株主に対し、当該募集事項(前項の規定により払込金額の決定の方法を定めた場合にあっては、その方法を含む。以下この節において同じ。)を通知しなければならない。
4項:前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。



経済面における株主の保護についても書きたかったのですが、眠気には勝てません。
おやすみなさい(′∀`)